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日本の半導体産業をめぐる政策課題
日本の半導体産業政策は、かつて世界のトップを走っていた半導体産業の再興と、経済安全保障の観点からの技術自立を目指したものです。
以下に、日本の半導体産業政策の背景、主要な取り組み、成果と課題について説明します。
1. はじめに
日本の半導体産業政策は、かつて世界をリードしていた半導体産業の復活と、経済安全保障の観点からの技術自立の確立を目的としている。かつて、日本の半導体産業は世界市場の50%以上のシェアを誇ったが、1990年代以降の市場競争の激化や政策の転換により低迷。しかし、近年の地政学的リスクの高まりや半導体不足を背景に、政府主導での産業復活戦略が強化されている。ここでは、日本の半導体産業政策の背景、主要な取り組み、成果、課題、今後の展望について詳しく分析する。
2. 日本の半導体産業政策の背景
(1) 全盛期からの低迷1970~1980年代、日本の半導体産業は世界市場の50%以上を占めていたが、1990年代以降、競争力が低下 した。
主な要因
✅日米半導体協定(1986年) による市場開放と輸出規制の影響。
✅台湾・韓国への製造シフト(特にDRAM市場)。
✅米国企業(インテル)や台湾TSMC、韓国サムスンなどの台頭 による競争激化。
(2) 経済安全保障と技術自立の必要性
✅米中対立の激化 により、先端技術の確保とサプライチェーンの安定化 が急務。
✅半導体は軍事・インフラ分野にも不可欠な技術であり、国際競争における戦略的資産となっている。
(3) 次世代技術への対応
✅AI、IoT、5G、量子コンピューティング、エネルギー効率化など、新たな技術への対応が求められている。
✅特に自動車産業(EV・自動運転)やスマートインフラ向けの半導体が重要視されている。
3. 日本の半導体産業政策の主要な取り組み
(1) 「半導体・デジタル産業戦略」2021年6月、日本政府が策定した「半導体・デジタル産業戦略」 は、日本の半導体産業復活のための基本方針を示している。
主な施策
✅先端半導体の国内生産基盤の強化
⭐TSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場誘致。
⭐国内企業と外資系企業の連携支援(ソニー、デンソーとの協業など)。
✅次世代半導体の研究開発促進
⭐量子半導体、省エネルギー技術、新型メモリ技術の開発。
⭐産学連携プロジェクトを強化し、グローバルな共同研究を推進。
(2) 「経済安全保障推進法」
2022年施行の経済安全保障推進法 は、半導体を「戦略的物資」として位置づけ、供給網の強化を目指している。
主な施策
✅供給途絶リスクの軽減(国内生産能力の確保)。
✅重要企業への資金援助やインフラ整備の促進。
(3) 研究開発支援とイノベーション促進
日本政府は、次世代半導体の研究開発を支援するため、以下のような取り組みを行っている。
✅産業技術総合研究所(AIST) を中心に、半導体技術の開発を推進。
✅オープンイノベーションプラットフォーム の構築(企業・大学・研究機関の連携促進)。
(4) 人材育成と外国人技術者誘致
✅国内の大学・専門学校での半導体関連教育の強化。
✅海外技術者の誘致と、日本での就労支援プログラムの拡充。
(5) 補助金と税制優遇
✅先端半導体工場の建設・研究開発への補助金提供。
✅企業の設備投資に対する税制優遇措置を拡大。
4. 主な成果と進展
(1) TSMCの熊本進出✅2021年、日本政府の支援を受けてTSMCが熊本県に製造拠点を設置。
✅ソニー、デンソーとの協力により、日本国内の半導体供給基盤が強化。
(2) 「ラピダス(Rapidus)」の設立
✅2022年、日本企業連携による「ラピダス」設立。
✅米IBMと提携し、2nmプロセス技術の開発を推進。
(3) 量子技術・次世代半導体への進出
✅量子コンピューティング向け半導体の研究開発を加速。
✅新材料(窒化ガリウムなど)を活用した高効率半導体技術の確立。
5. 課題と挑戦
(1) 国際競争力の回復✅TSMC、サムスン、インテルと競争するための技術力強化 が必要。
✅量産技術とコスト競争力の向上が課題。
(2) サプライチェーンの脆弱性
✅シリコンウェハーやレアメタル、製造装置の供給元が海外に依存。
✅国内供給網の強化が必要。
(3) 人材不足
✅技術者の高齢化と若手人材の確保が課題。
✅海外の優秀な人材を確保するための移民政策の強化も必要。
(4) 政策の継続性
✅政権交代や予算制約による長期的な政策の不安定性が懸念。
✅一貫した産業政策の継続が求められる。
6. 今後の展望
日本の半導体産業政策は、国内外の企業との協力を進めながら、国際競争力の回復と経済安全保障の強化を目指している。主要戦略
1. AI、5G、グリーン技術などの成長分野での技術的優位性確立。
2. 政府主導の「TSMC熊本工場」「ラピダス」の成功が政策成果の鍵。
3. サプライチェーンの多角化と人材育成の推進。
今後、日本の半導体産業がグローバル市場での地位を回復し、技術自立と持続可能な成長を実現できるかが注目される。