TOP > 一般資源論 > 〈人的資源新秩序〉日本企業における副業解禁の背景とその意味:DX・業務改善がもたらす働き方の変化

〈人的資源新秩序〉日本企業における副業解禁の背景とその意味:DX・業務改善がもたらす働き方の変化

1. 副業解禁の流れと日本の労働環境の変化

(1) 副業解禁が進む背景
かつて、日本の企業は終身雇用制度と年功序列型賃金体系のもと、従業員の「忠誠心」や「企業へのコミットメント」を重視していた。企業が従業員を一生雇用する代わりに、従業員も1つの企業に専念するのが当たり前の働き方だった。そのため、副業は「本業への集中を妨げるもの」として禁止されるのが一般的だった。

しかし、近年ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)の進展や業務の効率化が進み、働き方そのものが変化している。その結果、副業を認める企業が増加し、政府もその流れを後押ししている。

(2) 副業解禁の現状
厚生労働省は2018年に「モデル就業規則」を改訂し、それまで禁止されていた副業を「原則容認」する方向に転換した。
また、2020年には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表し、企業が副業を認める際のルールや制度を明確にした。
副業を許可する企業の割合の推移(厚生労働省調査)
- 2016年:副業を許可している企業は全体の約30%
- 2021年:副業を許可している企業は約50%超
- 2023年:副業を推奨する企業も増加

このように、副業を認める企業は年々増加しており、企業文化そのものが変化していることがうかがえる。


2. DX・業務改善と副業の関係性

(1) DXによる労働環境の変化
デジタル・トランスフォーメーション(DX)は、日本の企業における業務のやり方を根本的に変えている。これにより、業務の効率化や柔軟な働き方の導入が進み、副業の実現可能性が高まっている。
✅ DXが副業を促進する理由
- リモートワークの普及:物理的なオフィスに依存しない働き方が広がった
- クラウド技術の進化:オンラインでの業務管理が可能になり、副業との両立が容易になった
- AI・自動化の活用:定型業務が減少し、余った時間を副業に活用できるようになった

例えば、バックオフィス業務(経理・人事・総務)などはクラウドツールの導入により効率化され、従業員が自由に使える時間が増えた。その結果、副業に充てる時間を確保しやすくなったのだ。

(2) 業務改善と労働時間の最適化
従来、日本の企業は「長時間労働」が常態化していた。しかし、政府が推進する「働き方改革」により、労働時間の削減や生産性向上が求められるようになった。
✅ 働き方改革関連の取り組み
- 残業時間の上限規制(2019年施行):長時間労働の是正が進む
- テレワークの推奨(2020年以降):柔軟な働き方の普及
- ジョブ型雇用の導入:スキルベースでの働き方が広がる

この結果、従業員が自由に使える時間が増え、副業の選択肢が現実的なものになった。


3. 副業解禁がもたらす経済的・社会的影響

(1) 企業側のメリット
✅ 従業員のスキルアップ
副業によって新たなスキルを習得することで、本業にも良い影響をもたらす。特にITやマーケティングなどの分野では、副業経験が本業の業務に活かされるケースが増えている。

✅ 社員のモチベーション向上
副業を通じて自己実現の機会を得ることで、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意)が向上する。

✅ 優秀な人材の確保
副業を認めることで、優秀な人材が企業に定着しやすくなる。特に若手世代にとって「柔軟な働き方」を提供することは、企業の競争力を高める要因となる。

(2) 従業員側のメリット
✅ 収入の多様化
本業以外の収入源を持つことで、経済的な安定を確保できる。特に、不景気時のリスクヘッジとして有効。

✅ キャリアの選択肢が広がる
副業を通じて新しい分野に挑戦できるため、キャリアの可能性が広がる。例えば、フリーランスの仕事を副業として始め、その後独立するケースも増えている。


4. 副業解禁に伴う課題と対策

(1) 労働時間の管理
副業を許可すると、過重労働のリスクが発生する。企業側は従業員の労働時間を適切に管理する仕組みを整える必要がある。

✅ 対策案
- 本業と副業の労働時間を報告する制度を導入
- 週の労働時間に上限を設ける(例:60時間以内)
- 副業の内容を企業がチェックし、健康リスクを管理する

(2) 情報漏洩のリスク
副業先が競合企業である場合、本業の機密情報が流出するリスクがある。

✅ 対策案
- 競合他社での副業を禁止するルールを設ける
- 情報漏洩に関する誓約書を締結する


5. 副業と日本企業の未来:働き方の変革

副業を認める企業の増加は、日本の労働環境が「企業中心」から「個人中心」へとシフトしていることを示している。

✅ 今後の展望
- 副業と本業の境界が曖昧になる(パラレルキャリアの普及)
- ジョブ型雇用が進み、スキルベースの評価が一般化
- DXによる業務の自動化で、個人の働き方がより柔軟になる

副業の普及は単なる企業の弱体化ではなく、労働の「最適化」と「多様化」が進んでいる証拠である。今後、副業が一般的になることで、日本の労働市場はより柔軟で競争力のあるものへと変化していくだろう。




関連記事

[おすすめ記事]一貫性理論:人はなぜ「一貫した状態」を求めるのか?
[おすすめ記事]〈企画書作成の肝〉効果的な企画書の書き方:完全ガイド