TOP > 一般資源論 > 〈経済基盤新秩序〉中小企業の事業承継問題とその解決策

〈経済基盤新秩序〉中小企業の事業承継問題とその解決策

日本の中小企業は、経済の根幹を支える重要な存在である。しかし、近年、経営者の高齢化と後継者不足により、事業承継問題が深刻化している。特に「大廃業時代」とも呼ばれる現象が進行しており、多くの企業が後継者を見つけられずに廃業を余儀なくされている。本稿では、中小企業の事業承継問題の現状、その影響、解決策としてのM&Aや支援制度について詳述する。


1. 事業承継問題の現状

経済産業省の調査によると、中小企業の経営者の年齢層は年々高齢化している。2015年時点で最も多い年齢層は65~69歳であり、平均引退年齢が70歳であることを考えると、多くの経営者が引退を目前にしている状況である。

特に問題なのは、後継者が未定の企業が多数存在することである。2025年時点で約245万人の中小企業経営者が引退適齢期を迎えるが、そのうち約127万社(全体の6割)は後継者が決まっていないという深刻な状況にある。


2. 事業承継が進まない要因

事業承継が円滑に進まない要因はいくつか存在する。

(1) 後継者不足
少子高齢化の影響で、企業の後継者となるべき子供や親族が減少している。また、後継者がいたとしても、事業を継ぐことに魅力を感じず、別の道を選ぶケースも増えている。

(2) 事業承継の準備不足
事業承継は長期的な計画が必要だが、多くの企業では十分な準備ができていない。経営者が事業承継の重要性を認識しながらも、具体的な計画を立てず、先延ばしにすることが多い。

(3) 財務的な問題
事業承継には、株式の譲渡や資産の移転など、大きな資金が必要になる。相続税や贈与税の負担も重く、後継者にとって大きなハードルとなる。


3. 事業承継問題がもたらす影響

(1) 経済全体への悪影響
中小企業は日本経済の雇用の約70%、GDPの50%以上を支えている。そのため、大量の企業が廃業すると、経済全体に悪影響を及ぼす可能性が高い。

(2) 地域経済の衰退
特に地方では、中小企業が地域経済の中心的な役割を果たしている。後継者不足による廃業が進むと、地域の雇用機会が減少し、過疎化が進む恐れがある。

(3) 技術やノウハウの喪失
中小企業の中には、高度な技術や独自のノウハウを持つ企業も多い。しかし、これらの企業が廃業すると、貴重な技術やノウハウが失われる可能性がある。


4. 事業承継の解決策

(1) M&A(合併・買収)の活用
中小企業の事業承継の選択肢として、M&A(合併・買収)が注目されている。M&Aを活用することで、後継者がいない企業でも事業を継続することが可能となる。

政府もM&Aを推進しており、「事業引継ぎ支援センター」などの支援機関を設立。2012年度から2017年度上期までの累計成約件数は1000件を超え、急速に普及している。

(2) 事業引継ぎ支援センターの活用
事業引継ぎ支援センターは、経済産業省・中小企業庁が中小企業基盤整備機構内に設立した全国的な支援機関である。商工会議所などと連携し、M&Aの仲介や個人譲渡の支援を行っている。

2011~2016年度の相談件数は累計で1万6988件、成約件数は2012~2016年度で791件に達している。また、2017年度の4~9月期には前年同期の1.5倍を超える305件の成約が報告されている。

(3) 税制優遇措置の活用
事業承継において、相続税や贈与税の負担が大きな問題となるが、政府は事業承継税制を拡充し、一定の条件を満たす場合に税負担を軽減する制度を提供している。

具体的には、事業承継計画を策定し、都道府県の認定を受けることで、相続税・贈与税の納税猶予や免除が受けられる。この制度を活用することで、後継者の財務的負担を大幅に軽減できる。


5. 事業承継成功のためのポイント

事業承継を円滑に進めるためには、以下のポイントが重要である。

(1) 早めの準備
事業承継には5~10年の準備期間が必要とされる。後継者の選定、経営権の移譲、税制対策など、計画的に進めることが求められる。

(2) 専門家の活用
税理士、弁護士、M&Aアドバイザーなどの専門家と連携し、適切な承継方法を検討することが重要である。

(3) 従業員・取引先への配慮
事業承継の過程では、従業員や取引先への影響も考慮しなければならない。透明性のある情報共有とスムーズな移行が求められる。


6. まとめ

中小企業の事業承継問題は、日本経済全体にとって大きな課題である。後継者不足や準備不足により、多くの企業が廃業の危機に直面している。

しかし、M&Aの活用、事業引継ぎ支援センターの支援、税制優遇措置の活用など、解決策は多岐にわたる。経営者は早めに準備を進め、事業承継を円滑に進めることが求められる。

日本の中小企業の持続的発展のために、適切な事業承継の実現が不可欠である。




関連記事

[おすすめ記事]〈経済基盤新秩序〉中小企業の後継者不足と事業承継ネットワークの重要性
[おすすめ記事]書籍の電子化:その意義と利点、課題と展望