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一貫性理論の提唱者とその後の研究成果

一貫性理論(Consistency Theory)は、人間が心理的な一貫性を求め、矛盾を解消しようとする傾向を説明する理論群の総称である。この概念は20世紀中盤に登場し、複数の心理学者によって発展を遂げてきた。特に、フリッツ・ハイダー(Fritz Heider)、レオン・フェスティンガー(Leon Festinger)、チャールズ・オスグッド(Charles Osgood)、アンソニー・グリーンウォルド(Anthony Greenwald)などが、それぞれ異なる視点から一貫性の原理を探求し、数々の理論的発展をもたらした。

ここでは、一貫性理論を発展させた主要な研究者とその研究成果について詳述する。


1. フリッツ・ハイダー(Fritz Heider)とバランス理論

(1) バランス理論(Balance Theory)の提唱
フリッツ・ハイダー(1958)は、「個人は自分の態度、信念、他者との関係をバランスのとれた状態に保とうとする」とするバランス理論(Balance Theory)を提唱した。この理論は、一貫性理論の中でも特に対人関係や社会的態度の変化を説明するものとして知られている。

ハイダーのモデルでは、3つの要素(個人P、他者O、対象X)の関係を数学的に整理し、「プラス(肯定的)」と「マイナス(否定的)」の関係の組み合わせがバランスを生むかどうかを分析する手法を提案した。

(2) 実証研究と発展
ハイダーの理論は、1960年代以降、多くの研究者によって実験的に検証された。特に、ローゼンバーグとアベルソン(Rosenberg & Abelson, 1960)は、人間関係の調和がどのように形成され、どのような条件下で破綻するのかを詳細に分析し、バランス理論の適用範囲を拡張した。

例えば、
- 「好きな人が嫌いなものを好きだったらどうするか?」
- 「嫌いな人と共通の敵を持つことで関係は変化するか?」

といった問題に対して、認知の変化がどのように生じるのかを分析した。

その後、バランス理論は政治学や国際関係論にも応用され、国家間の同盟関係のダイナミクスを説明する理論としても発展した。


2. レオン・フェスティンガー(Leon Festinger)と認知的不協和理論

(1) 認知的不協和(Cognitive Dissonance)の提唱
レオン・フェスティンガー(1957)は、「人は自分の信念や行動に矛盾が生じると、それを解消しようとする」という認知的不協和理論(Cognitive Dissonance Theory)を提唱した。

彼の実験の中で最も有名なのは、「1ドル vs 20ドルの嘘」実験である。被験者に単調な作業を行わせた後、次のような条件で別の被験者に「この作業は面白い」と伝えさせた。
1. 1ドルの報酬をもらったグループ
2. 20ドルの報酬をもらったグループ

その結果、1ドルのグループの方が「本当に作業が面白かった」と認識を変えた。これは、報酬が少ないことで「嘘をついたことへの罪悪感」を軽減するために、「実は楽しかった」と態度を変えたことを示している。

(2) 研究の発展と批判
フェスティンガーの認知的不協和理論は、その後の社会心理学に大きな影響を与えた。しかし、「不協和が必ずしも不快ではない」「認知の変化が必ず起こるとは限らない」といった批判も出された。

特に、エリオット・アロンソン(Elliot Aronson, 1969)は、「認知的不協和は自己概念が脅かされた場合に強く生じる」とし、自己肯定感(Self-affirmation)との関連を指摘した。

また、スティール(Claude Steele, 1988)は、「不協和を解消する方法として、態度変更以外にも、自己肯定を高める行動(運動、寄付など)が選択されることがある」と主張し、認知的不協和の概念を拡張した。


3. チャールズ・オスグッド(Charles Osgood)と調和理論

オスグッド(1954)は、「対立をどのように解消するか?」に焦点を当て、調和理論(Congruity Theory)を提唱した。

彼の研究では、「ある対象(X)に対する好感度が、他者(O)の意見によって変化する」という考えが強調された。これは、マーケティングや広告戦略にも応用され、例えば有名人(O)が製品(X)を推奨することで、消費者の態度が変化することを示した。

この理論は、現代のインフルエンサーマーケティングにもつながる考え方として注目されている。


4. アンソニー・グリーンウォルド(Anthony Greenwald)と自己一貫性理論

グリーンウォルド(1980)は、「人は自己イメージを維持するために、一貫した行動を取る」とする自己一貫性理論(Self-Consistency Theory)を提唱した。

彼は、認知的不協和理論と異なり、「人は自己評価を脅かさない範囲で矛盾を許容する」という視点を持ち、不協和が必ずしも不快ではないことを指摘した。

特に、「自己肯定感の高い人は、不協和に強く、柔軟な態度変更を行いやすい」とする研究結果を示し、その後の自己肯定理論(Self-Affirmation Theory)の基礎を築いた。


5. まとめと今後の研究の方向性

一貫性理論は、バランス理論(ハイダー)、認知的不協和理論(フェスティンガー)、調和理論(オスグッド)、自己一貫性理論(グリーンウォルド)といった異なる視点から発展してきた。

現代では、これらの理論は神経科学やAIの意思決定モデル、マーケティング、政治学、ソーシャルメディア分析など、多様な分野に応用されている。今後も、人間の「一貫性を求める心理」がどのように社会やテクノロジーに影響を与えるかが、さらなる研究のテーマとなるだろう。





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