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〈人的資源新秩序〉引きこもりと発達過程の関係性:成長段階における要因と高齢化の課題
1. はじめに
引きこもりは、一部の人が思うように「思春期特有の一時的な現象」ではなく、発達過程のさまざまな段階で発生し得る社会的な問題 である。学齢期に引きこもり状態になる場合もあれば、社会人になってから引きこもり状態に陥るケースも多い。また、若年期の引きこもりが長期化し、中年期に達しても社会復帰できないケースも増えており、「引きこもりの高齢化」が社会問題として深刻視されている。本稿では、引きこもりの発達過程における発生要因とその影響を分析し、高齢化する引きこもりが社会にもたらす課題、さらには支援策について考察する。
2. 引きこもりの発達段階別の要因
引きこもりは、年齢やライフステージに応じて発生要因が異なる。以下に、各発達段階での主な要因を整理する。(1) 児童期・学齢期(6~15歳)
主な要因
- 学校でのいじめや人間関係のトラブル
- 発達障害(ASD・ADHD)の未診断・未対応
- 過剰な学習プレッシャー(受験競争によるストレス)
- 家庭内の不安定な環境(親の離婚、虐待、過保護・過干渉)
影響
- 学校不適応による不登校 が長期化し、引きこもりへ移行。
- 発達障害が適切にサポートされないと、自己肯定感の低下を招き、対人関係を避ける傾向が強まる。
(2) 青年期・若年成人期(16~34歳)
主な要因
- 進学・就職の失敗による挫折感
- 就職後の職場環境への適応困難(パワハラ・セクハラ・長時間労働)
- フリーター・非正規雇用の増加による不安定な生活
- インターネットやSNS依存による社会的孤立
影響
- 就職の失敗が原因で引きこもりになった場合、キャリア形成が遅れ、経済的に自立しにくくなる。
- 社会経験の不足により、対人スキルが低下し、ますます外の世界との接触が困難になる。
(3) 中年期(35~49歳)
主な要因
- 若年期の引きこもりの長期化(親の支援に頼り続ける)
- リストラや職場の適応困難 により、仕事を辞めた後に再就職できず引きこもる
- 「8050問題」(80代の親が50代の引きこもりの子を支える状況) の深刻化
影響
- 長期化すると、労働市場への復帰がさらに難しくなり、経済的にも親への依存が強まる。
- 親が亡くなった後の生活困難(「親亡き後」問題) への不安が大きい。
(4) 高年齢期(50歳以上)
主な要因
- 親の介護が必要になり、社会復帰の機会を失う
- 社会復帰を試みても、年齢的な壁が高く、雇用機会が少ない
- 孤立化が進み、地域社会とのつながりを持たなくなる
影響
- 生活保護に頼るケースが増加し、社会保障費の負担が大きくなる。
- 高齢化する引きこもりのケアを担う人材が不足し、社会的な支援体制の強化が求められる。
3. 引きこもりの高齢化と社会への影響
(1) 労働力不足の悪化- 日本の生産年齢人口(15~64歳)は減少しており、引きこもり層を労働市場に戻すことが喫緊の課題 となっている。
- 特に中高年の引きこもり層は、再就職の機会が少なく、働く意欲を持っていても適切な仕事に就くのが難しい。
(2) 社会保障費の増大
- 親の年金や貯蓄が尽きると、生活保護に頼るケースが増加。
- 医療費・福祉支援の負担が国や自治体に重くのしかかる。
(3) 「親亡き後」問題の深刻化
- 引きこもりの子を抱える親の高齢化が進み、親が亡くなった後に生活困難に陥るケースが増加。
- 兄弟姉妹が支援を担う場合、家族間でのトラブルが発生することもある。
4. 引きこもりからの社会復帰を促進するための支援策
(1) 早期介入と発達障害支援- 児童期のうちに発達障害や適応困難の兆候を早期発見し、適切な支援を行うことが重要。
- 学校でのカウンセリング体制を強化し、不登校の段階で手を打つ。
(2) 若年層向けの就労支援強化
- オンライン教育や職業訓練を活用し、在宅でもスキルを習得できる仕組みを作る。
- 企業と連携し、職場体験プログラムを充実させる。
(3) 中高年向けの社会復帰支援
- 短時間労働や在宅ワークなど、多様な雇用形態を増やす。
- 「地域コミュニティ」との連携を強化し、社会との接点を持ちやすくする。
(4) 高齢者向けの生活支援と社会参加促進
- シニア向けの居場所づくり(地域の交流スペースやボランティア活動) を強化。
- 行政とNPOが連携し、高齢引きこもり者の生活支援を行う。
5. 今後の展望
引きこもりの問題は、単なる個人の問題ではなく、社会全体の課題として解決策を講じる必要がある。特に、高齢化が進む引きこもり層をどのように社会に再統合するか が今後の大きなテーマとなる。- 「多様な働き方」を受け入れる社会の整備(フリーランス、リモートワークの普及)。
- 地域コミュニティとのつながりを強化し、孤立を防ぐ。
- 引きこもりに対する偏見をなくし、支援を受けやすい環境を整える。
今後、日本社会全体が「引きこもり=失敗」ではなく、「誰もが社会とつながれる仕組みを作る」という視点で取り組むことが求められる。
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