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〈人的資源新秩序〉不登校とは

1. 不登校の定義

不登校とは、学校に登校していない状態全般を指す広範な概念 であり、学籍の有無や欠席の期間を問わず、継続的に学校に通えない状況を含む。

「欠席」という言葉が1日単位で使用されるのに対し、「不登校」は一定期間にわたり学校に通わない状態を指すことが多い。また、日本政府の統計では「理由別長期欠席者数」として分類される不登校児童・生徒の数が公表されているが、メディアなどではこれに該当しない長期欠席者を含めない形で「不登校」という言葉が使われることもある。

不登校は、大きく以下の2つに分類される。

1. 学籍がなく、登校しない状態
- 義務教育を受けられない非就学者、受験浪人、就学義務猶予免除対象者などが含まれる。

2. 学籍があるが、登校しない状態
- 長期欠席、休学、停学、出席停止などのケースが該当する。
- 文部科学省の統計では、「病気」「経済的理由」「不登校」「その他」 という分類が行われている。

近年、日本では義務教育制度が整備されており、学齢期の子どもは基本的に学籍を持つため、就学自体できていない「非就学型不登校」は少数派 となっている。


2. 日本の不登校の現状と動向

(1) 不登校児童・生徒の増加傾向
文部科学省の調査によると、不登校の小中学生の数は年々増加傾向にある。

- 2021年度の全国の不登校児童・生徒数は 約24万人(過去最多)
- 2022年度の速報値では 約30万人を超える 可能性が指摘されている

(2) 主な要因
不登校の要因は複雑であり、以下のような要素が絡み合っている。

① 精神的・心理的要因
- 学校での人間関係(いじめ、友人関係のトラブルなど)
- 学業不振や過度なプレッシャー によるストレス
- 発達障害・HSC(Highly Sensitive Child:ひといちばい敏感な子ども) などの特性
- コロナ禍による対人ストレスの増加(登校再開後の環境適応困難など)

② 家庭環境・経済的要因
- 生活保護世帯や低所得家庭 で不登校の割合が高い
- 2009年東京都板橋区の調査:生活保護を受ける中学生の不登校発生率 11.58%(全体の4.8倍)
- 2008年東京都杉並区の調査:生活保護世帯の不登校発生率 8.6%(全体の約4倍)
- 親の育児スタイルや家庭内の問題(ネグレクト、親子関係の悪化)

③ 学校環境の影響
- 過度な競争・成績評価の厳格化
- 教師との関係性や指導方法 への不適応
- 学級の雰囲気・学校文化 に合わない

④ 社会的要因
- SNS・インターネットの普及による生活リズムの変化(昼夜逆転など)
- 「学歴主義」からの脱却 により、必ずしも学校に通わなくてもよいという価値観の変化


3. 不登校の影響と長期的リスク

(1) 学力・進学への影響
- 出席日数の減少により、学力の低下が懸念 される(特に数学・国語など基礎学力)。
- 高校進学率・大学進学率が低下する傾向(通信制高校への進学増加)。

(2) 社会的孤立・精神的健康への影響
- 長期間の不登校は、自尊心の低下やうつ病・不安障害のリスク を高める。
- 家庭外との接点が減少 し、社会的孤立が進む可能性がある。

(3) 将来的な就労リスク
- 不登校経験者は正規雇用への就職率が低い ことが指摘されている。
- 非正規雇用やフリーランスなど多様なキャリアを選ぶ傾向 も見られる。


4. 不登校への対応と支援策

(1) オルタナティブ教育の推進
- フリースクール・ホームスクール・オンライン教育の活用 が拡大。
- 2023年から「不登校特例校」(学校以外の教育施設で学ぶ制度)を正式導入。

(2) 学校側の対応強化
- 「学校に戻すこと」よりも「個別最適な学びの環境」を提供する方向へ転換。
- スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置強化。
- オンライン登校・遠隔授業の導入(コロナ禍を機に普及)。

(3) 家庭への支援強化
- 経済的困窮家庭への支援拡充(学習支援・生活支援)。
- 保護者向けカウンセリング・相談窓口の整備。

(4) キャリア支援と就労サポート
- 高校・大学進学の選択肢を広げる取り組み(通信制高校・高卒認定試験の活用)。
- 就労支援プログラムの充実(職業訓練・インターンシップなど)。


5. 今後の展望

(1) 不登校の「ネガティブな烙印」の払拭
- 「不登校=悪いこと」という固定観念をなくし、多様な学び方を尊重する社会の実現 が求められる。
- 近年、文部科学省も「無理に学校復帰を目指さず、多様な学びの場を確保する」方針を打ち出している。

(2) デジタル教育の活用
- メタバース・VR学習 など、物理的に学校に通わずとも学習できる新しい技術の導入 が期待される。

(3) 社会全体での支援体制の強化
- 自治体・企業・NPOが連携し、不登校の子どもたちを支援する仕組みの確立。
- 教育の多様化を推進し、社会に開かれた学びの環境を整える ことが重要。

今後、日本の不登校政策は、「学校復帰」だけでなく、「多様な学びの選択肢を増やす」方向にシフトすることが求められる。




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