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〈水資源新秩序〉水ビジネスの新興勢力:シンガポールの挑戦と成長

1. 水資源の危機から生まれた戦略的政策

シンガポールは、かつて水資源の大半を隣国マレーシアに依存していました。しかし、マレーシア政府が水の価格引き上げを要求したことで、水の安定供給が国家の最重要課題となりました。

この危機を機に、シンガポール政府は水の自給率向上と水ビジネスの育成に本格的に取り組みました。その中核を担うのが、PUB(Public Utilities Board/公益事業庁) です。2004年には、シンガポールの水研究・ビジネスの拠点として 「ウォーター・ハブ(Water Hub)」 を設立し、国家戦略として水ビジネスの発展を進めました。

この政策の目的は大きく2つです。
1. シンガポール国内の水問題解決(自給率向上)
2. シンガポール企業を世界的な水ビジネス企業へと成長させる

つまり、国内の水資源問題を克服しながら、同時にグローバルな水ビジネスのハブとしての地位を確立する という野心的な戦略が展開されたのです。


2. シンガポールの水ビジネスの強み

4つの「国家水戦略」
シンガポールは、限られた国土と資源を最大限に活用するため、以下の4つの水資源確保戦略を打ち立てました。

1. マレーシアからの輸入水(Imported Water)
✅依存を減らしつつ、契約終了まで利用。

2. 貯水池などの集水システム(Local Catchment Water)
✅都市部の水資源を最大限活用し、集水エリアを拡大。

3. 再生水(NEWater)
✅廃水を高度処理し、飲用水や工業用水として再利用。

4. 海水淡水化(Desalinated Water)
✅最先端技術を駆使した海水淡水化プラントの拡大。

特に、「NEWater」 は、シンガポール独自の技術として世界的にも高く評価されており、再生水の活用が進んでいます。


3. シンガポールの水ビジネスを支える産業界の取り組み

3.1. 水ビジネスの育成に250億円を投資
シンガポール政府は、水産業の発展に250億円規模の資金を投入し、産官学の連携を強化しました。この結果、世界市場で競争力を持つ企業が育ちました。その代表例がハイフラックス(Hyflux Ltd) です。

3.2. 水ビジネスのリーダー企業:ハイフラックス(Hyflux)
ハイフラックスは、シンガポール政府から上下水道供給施設の管理運営を全面的に委託されたことで、国内で豊富な経験を積みました。この成功を基盤に、中国、中東、北アフリカ地域へと積極的に進出し、海水淡水化プラントの建設や水処理技術の提供を進めています。
✅ 海水淡水化技術の最前線
✅ 再生水処理技術(NEWater)の開発と輸出
✅ アジア・中東・アフリカ市場への進出

特に、中東や北アフリカでは慢性的な水不足が続いており、ハイフラックスの技術は現地での水供給の安定化に大きく貢献しています。


4. シンガポールの水ビジネスの未来

シンガポールは、限られた水資源を克服するための技術革新を進めてきました。今後も以下の分野でさらなる成長が期待されています。

4.1. AIとIoTを活用したスマート水管理
✅センサー技術とAIを活用し、水の使用状況をリアルタイムで管理。
✅漏水検知システムの高度化による効率的な水供給。

4.2. 国際水ビジネス市場でのプレゼンス拡大
✅既にアジア・中東市場での存在感を強めているが、今後は欧米市場への進出も視野に。
✅2020年代以降、水不足が深刻化する地域でのビジネスチャンス拡大。

4.3. 環境保護と持続可能な水管理の推進
✅気候変動の影響を受けにくい水供給システムの開発。
✅水循環型社会の構築に向けた国際協力の強化。


5. まとめ:水問題から「水ビジネス大国」へ

シンガポールは、もともと水資源が乏しいというハンデ を乗り越え、最先端の水管理技術を確立 しました。今や、水ビジネスの新興勢力として世界市場で影響力を持つ国へと成長しています。
✅ 政府主導の水資源戦略とウォーター・ハブの設立
✅ NEWaterや海水淡水化などの先進的技術
✅ ハイフラックスを中心としたグローバル展開
✅ AI・IoTを活用した次世代の水管理技術の開発

「水資源の少なさ」という危機を「ビジネスチャンス」に変えたシンガポールの取り組みは、世界の水問題解決に向けたモデルケースとなっています。今後、シンガポールの水技術がどのように世界市場をリードしていくのか、その動向に注目が集まっています。



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